小説史に、新たな歴史が刻まれる――

BOC1 【ボック】

中央公論新社130周年記念文芸誌

2016.4.25 release

伊坂幸太郎

朝井リ

茅田砂胡

【ボック】 BOCとは

中央公論新社は20164月、『海』以来、
20年ぶりとなる文芸誌を創刊します。

ミステリから歴史・時代・純文学、ファンタジーまで。
「ツナガル」をテーマに、未来志向のフレッシュな
“中公文芸”をお届けします。

【ra-sen】螺 旋

伊坂幸太郎氏を中心に、
あの若手直木賞作家から気鋭のミステリ作家、
はたまた今話題の本格歴史作家まで、
いずれ劣らぬ超豪華作家陣が、長篇競作を行います。
参加メンバーは当HPにて随時発表いたします。

宿命の対決は時を超え、幾度となく繰り返される。
「海族」と「山族」の対立を縦糸に。
古代から未来まで、時の流れを横糸に。
組の作家が紡ぐ物語は絡み合い、
かつてない壮大な絵織物(タペストリー)となる―

少年が息を荒らげ、山を登ってくる。

砦で女が彼を迎え、どうしたのかと訊ねた。

「これ、何? 下で見つけたんだ。カタツムリの殻かな」

女はそれを節榑だった指で受け取り、翳す。

日が透けた。「これはたぶん、貝殻。貝」

「貝って」「貝は、海のもの」

その途端、隣で寝そべっていた黒犬がむくっと頭を上げ、少年は分かりやすいほどに怯え、顔に手をやらんばかりだ。「海のものがどうして山にあるの? 海と山はまざらないんじゃないの」

「海と山はまざるんじゃなくて、ぶつかるの」

<海のものと会ってはならぬ。海の色をした瞳の、海のものと会わぬように。会えばぶつかる。ぶつからなくともこすれ合う。どちらかが、もしくは双方が、斃れてしまう。海のものと会ってはならぬ>

「どうして仲が悪くなっちゃったんだろ」

「仲が悪いわけではないんだよ」それならばまだ分かりやすかった。お互いの気に入らぬ点を理解し、表面上だけでも穏やかに接し、いがみ合わないようにと気を配り、折り合いをつけることができる。女はその場に落ちている石を拾うと、少年の頭の高さで、手を離した。どさっと落ちる。「物は、落ちるでしょ。同じように、わたしたちは海の人と会えば、衝突するようになっているの」

「じゃあ、この貝はどうして山にあったの」

昔、海の人間がこのあたりに来た印なのか、もしくは海に行った何者かが持ち帰ったのか。確かなのは、そこで大なり小なりの争いが起きたことだ。山の者と海の者の対立は、太古から未来まで繰り返され、その衝突のひとつひとつに物語がある。

「仲良くやればいいのに」少年が言った時、海の集落でも、海の子供が海の大人に同じことを口にしていた。仲良くやればいいのに。

「会ったらいけないんだ」どちらの大人もそう答えるほかない。

【kayata-sunako】 茅田砂胡新連載
「デルフィニア戦記外伝」

あの超人気シリーズが帰ってきた!<読者アンケートは終了しました。>

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